
郁人の一人暮らしの部屋で、ゲームをすることになった。
「適当でいいから座って」
「おー」
言われるまま床に座り、郁人がテレビをつける。
コントローラーを渡され、
そのまま何となくゲームが始まった。
最初は他愛ない話ばかりだった。
バイトのこととか、
大学のこととか、
高校の頃の共通の知り合いのこととか。
けれど、画面に集中しているうちに、
ふと弘樹の口が動く。
「なあ。卒業後、どうするん?」
何気ない調子だった。
けれど、その瞬間。
郁人の指が、ほんの少しだけ止まる。
「……エンジニア職かなとは考えてる」
視線は画面に向いたまま。
「でも、まだ決めたわけじゃない」
淡々とした声だった。
「まだ就活してんの?」
「たまに応募してる。内定も、一応あるにはある」
「あ、そうなんだ」
返事をしながら、弘樹はちらりと郁人を見る。
言葉は普通だけど、悩んでいるのがわかる。
「弘樹は?」
少し間を置いて、郁人が聞き返す。
「なんでA社にしたの」
「んー……」
弘樹は少し考えてから笑った。
「なんか、自分に合ってそうだったからかな。得意なこと活かせそうだし」
深く考えたわけじゃない。
けれど、そう答えると、
「……そっか」
郁人は小さく返した。
そこで会話が途切れる。
ゲームの効果音だけが、静かな部屋に響いていた。
しばらくして。
「……間違えたくないんだよな」
ぽつりと、郁人が呟く。
「正しいほうを選びたいって思うんだけど」
そこで言葉が切れる。
「……なんか、決めきれなくてさ」
弘樹は思わず横を見る。
郁人はいつも通りの顔をしていた。
無表情で、
落ち着いていて、
普段と何も変わらない。
——なのに。
どこか少しだけ、沈んで見えた。
弘樹が何か言おうとした、その時。
スマホの着信音が鳴る。
郁人の手が止まり、
すぐにスマホの画面へ視線を落とした。
「……わりぃ、ちょっと出る」
それだけ言って、郁人は静かに立ち上がった。
