#011 就活

郁人の一人暮らしの部屋で、ゲームをすることになった。

「適当でいいから座って」

「おー」

言われるまま床に座り、郁人がテレビをつける。

コントローラーを渡され、
そのまま何となくゲームが始まった。

最初は他愛ない話ばかりだった。

バイトのこととか、
大学のこととか、
高校の頃の共通の知り合いのこととか。

けれど、画面に集中しているうちに、
ふと弘樹の口が動く。

「なあ。卒業後、どうするん?」

何気ない調子だった。

けれど、その瞬間。

郁人の指が、ほんの少しだけ止まる。

「……エンジニア職かなとは考えてる」

視線は画面に向いたまま。

「でも、まだ決めたわけじゃない」

淡々とした声だった。

「まだ就活してんの?」

「たまに応募してる。内定も、一応あるにはある」

「あ、そうなんだ」

返事をしながら、弘樹はちらりと郁人を見る。

言葉は普通だけど、悩んでいるのがわかる。

「弘樹は?」

少し間を置いて、郁人が聞き返す。

「なんでA社にしたの」

「んー……」

弘樹は少し考えてから笑った。

「なんか、自分に合ってそうだったからかな。得意なこと活かせそうだし」

深く考えたわけじゃない。

けれど、そう答えると、

「……そっか」

郁人は小さく返した。

そこで会話が途切れる。

ゲームの効果音だけが、静かな部屋に響いていた。

しばらくして。

「……間違えたくないんだよな」

ぽつりと、郁人が呟く。

「正しいほうを選びたいって思うんだけど」

そこで言葉が切れる。

「……なんか、決めきれなくてさ」

弘樹は思わず横を見る。

郁人はいつも通りの顔をしていた。

無表情で、
落ち着いていて、
普段と何も変わらない。

——なのに。

どこか少しだけ、沈んで見えた。

弘樹が何か言おうとした、その時。

スマホの着信音が鳴る。

郁人の手が止まり、
すぐにスマホの画面へ視線を落とした。

「……わりぃ、ちょっと出る」

それだけ言って、郁人は静かに立ち上がった。

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