夏休みに入って数日後。
陸は駅前のカフェの前で、そわそわしながらスマホを握っていた。
——ハルさんと、大学の外で会うんだ。
そう思うだけで、落ち着かない。
「ごめん、待った?」
聞き慣れた優しい声に顔を上げる。
「い、いえ。今来たところです」
ハルはいつもの柔らかな笑顔を浮かべながら、店のドアを開けた。
「じゃ、入ろっか」
店内は落ち着いた雰囲気で、甘い香りが漂っている。
席に着くと、ハルがメニューを開きながら笑った。
「ここのチーズケーキ、有名らしいよ」
「美味しそうです」
しばらくして、頼んだケーキが運ばれてきた。
一口食べた瞬間、陸の顔が自然とほころぶ。
「……美味しい」
「よかった」
嬉しそうに笑うハルを見て、胸の奥がじんわり温かくなる。

しばらく他愛ない話をしていたが、ふいにハルがコーヒーへ視線を落とした。
「夏休み入ったけど、俺、卒論が結構やばくてさ」
「あ……忙しいんですか?」
「うん。わりと追い込まれてる」
困ったように笑う姿に、陸は少しだけ胸がきゅっとなる。
「でも、陸と会う時間くらいは作りたいなって思って」
さらりと言われて、陸は思わず言葉を失った。
熱くなった頬をごまかすように、慌ててフォークを持つ。
そんな陸を見ながら、ハルがふっと目を細めた。
「そういえば陸って、付き合ってる人とかいるの?」
「えっ……」
突然の質問に、心臓が跳ねる。
「い、いないです」
答えながら、なぜか少しだけ緊張してしまう。
「そっか」
ハルはどこか安心したように笑った。
その表情が気になって、陸はおそるおそる聞き返す。
「……ハルさんは、いるんですか?」
「俺?」
ハルは少しだけ考えるように視線を逸らした。
