#010 カフェ01

夏休みに入って数日後。

陸は駅前のカフェの前で、そわそわしながらスマホを握っていた。

——ハルさんと、大学の外で会うんだ。

そう思うだけで、落ち着かない。

「ごめん、待った?」

聞き慣れた優しい声に顔を上げる。

「い、いえ。今来たところです」

ハルはいつもの柔らかな笑顔を浮かべながら、店のドアを開けた。

「じゃ、入ろっか」

店内は落ち着いた雰囲気で、甘い香りが漂っている。

席に着くと、ハルがメニューを開きながら笑った。

「ここのチーズケーキ、有名らしいよ」

「美味しそうです」

しばらくして、頼んだケーキが運ばれてきた。

一口食べた瞬間、陸の顔が自然とほころぶ。

「……美味しい」

「よかった」

嬉しそうに笑うハルを見て、胸の奥がじんわり温かくなる。

しばらく他愛ない話をしていたが、ふいにハルがコーヒーへ視線を落とした。

「夏休み入ったけど、俺、卒論が結構やばくてさ」

「あ……忙しいんですか?」

「うん。わりと追い込まれてる」

困ったように笑う姿に、陸は少しだけ胸がきゅっとなる。

「でも、陸と会う時間くらいは作りたいなって思って」

さらりと言われて、陸は思わず言葉を失った。

熱くなった頬をごまかすように、慌ててフォークを持つ。

そんな陸を見ながら、ハルがふっと目を細めた。

「そういえば陸って、付き合ってる人とかいるの?」

「えっ……」

突然の質問に、心臓が跳ねる。

「い、いないです」

答えながら、なぜか少しだけ緊張してしまう。

「そっか」

ハルはどこか安心したように笑った。

その表情が気になって、陸はおそるおそる聞き返す。

「……ハルさんは、いるんですか?」

「俺?」

ハルは少しだけ考えるように視線を逸らした。

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