
大学四年の春。
瀬谷郁人(せやいくと)は、空いた時間をほとんどバイトに充てていた。
このカフェで働き始めて、もう三年。
気づけば新人に仕事を教える側になっていた。

カウンターの中で準備をしていると、店長が声をかけてくる。
「瀬谷くん、今日さ。15時に新人入るんだけど、見てもらっていい?」
「はい」
短く返す。
いつも通り、感情の乗らない声。
「やぎさわ君って子なんだけど」
——やぎさわ。
その苗字に、手が一瞬だけ止まる。
「……店長、その人、いくつですか?」
何気ないふりをして聞く。
「ん?あー、大学四年って言ってたな。お前と同い年じゃないか?」
「……そうっすね」
軽く頷く。
同い年、
やぎさわ…
頭の中に、ひとりの男の顔が浮かぶ。
高校の時の同級生に、同じ名前のやつがいた…
明るくて、
人の懐にはいるのがうまくて、
距離の近かった——
「……まさか」
そう思いながらも、時計の針が15時に近づくほど、妙に落ち着かなかった。
